新しい旅に出るために。「X-S20」と訪れた4年ぶりの台湾。新しい旅に出るために。「X-S20」と訪れた4年ぶりの台湾。

October 31,2023

新しい旅に出るために。「X-S20」と訪れた4年ぶりの台湾。

CASE STUDY 12 :

Hiroaki Kawanami

PROFILE
川浪寛朗 Hiroaki Kawanami
川浪寛朗 Hiroaki Kawanami
デザインディレクター。1985年福岡市生まれ。九州芸術工科大学卒業後、Studio ShirotaniにてKINTOのプロダクトデザインに携わる。2011年より日本デザインセンター・原デザイン研究所にて、企業のブランディングやプロモーションから、展示計画、サイン計画、プロダクトデザインまで幅広いプロジェクトを担当。独立後、2019年よりアウトドアと都市生活の相互性をテーマに活動を始める。hxo design(台湾)の日本展開を開始。wanderout元ディレクター。デザインのカテゴリーを横断し、コンセプトワークから平面・立体・空間まで、一貫したディレクションとデザインを行う。

台湾のアウトドアブランド“hxo design”の日本展開をされているデザインディレクターの川浪寛朗さん。“hxo design”に出会ったきっかけから、新商品企画のために訪れた久しぶりの台湾旅、そして台湾奥地でのキャンプ体験を「X-S20」の写真とともに綴っていただきました。川浪さんの繊細な写真描写からは、ものを見る独自の視点がはっきり浮かび上がってくるようです。

2023年、“hxo design” の仲間と約束したキャンプへ

この世界で“コロナ”といえば、大抵の場合はビールを意味していた2018年、インターネットの片隅で“hxo design”という名の道具に出会った。機能的で美しく、細部まで配慮の行き届いたそのプロダクトに惚れ込み、またそれを生み出した人物に興味を引かれ、台湾までデザイナーを訪ねた。その1年後、不思議な縁で、私のようなデザインに携わる人間が「輸入業」という慣れない仕事を始めることになる。だが、その当時は、世界中のあらゆることが一変するとは夢にも思っていなかった。

各国で実質的な鎖国が始まったとき、これまで世界がいかに高速で奇跡的な関係で成り立っているかを、目の当たりにすることになった。原材料不足、ウッドショック、工場の操業停止命令、為替の大幅な変動、輸送費の高騰、コンテナ不足・・・。そんな災禍の中でも、ネットの細い繋がりを頼りに、逐一連絡を取り合い、時に冗談を交えながら次々と発生するトラブルを共に解決してきた。世界が落ち着いたら、いつか一緒にキャンプに行こうと約束した。そして2023年、ようやく仲間達に再開し、約束を果たすことのできるタイミングが訪れたのだ。

台北松山空港に到着した後、早々にデザイナーの蕭勇殿(シャオ・ヨンディン)氏の自宅へと向かう。小さなネジの1本から設計された、細部まで完成された空間の中に、北欧デンマークと戦後のイタリアの名作、そして自作の家具などが並ぶ。私たちは、そこで4年の歳月を振り返りつつ、新作のプロダクトを確認し、今後の方向性などを打ち合わせた。そして翌朝、蕭氏の義兄でビジネスパートナーでもあるRex Wang氏の愛車、1975年式のVolkswagen T2 Westfaliaに乗り込み、台北から3時間ほどのキャンプ場へと出発した。



自然の中で生活を営む。不便な環境だからこそ、自らの知恵と技量で美しく快適に過ごす。

南国である台湾のキャンパーは涼しい高地に好んで訪れるとのことで、標高1200mほどの、五峰郷と呼ばれる少数民族の村を目指す。手回しの窓を全開にして、次第に涼しくなっていく空気を車内に取り込みながら、非力なヴィンテージカーは懸命に駆け登った。




到着後、手早くタープをセットし、新しいテーブルのプロトタイプを現場で確認。実際にキャンプで使いながらテストする。国は違えど、自然の中で生活を営むという、シンプルな遊びに境界はなく、豊かな時間を共有できることが何より嬉しい。次第に付近は濃霧に包まれ、まるで山水の世界に迷い込んだような幻想的な情景となった。そしてそのまま夕闇が訪れると、慣れた手つきで次々と用意される本場の台湾料理をつまみつつ、4年の歳月を手繰り寄せるかのように、夜が更けるまでワインを酌み交わした。

そもそも私がキャンプを始めたのは、東京での多忙なデザイン仕事からの逃避のためだった。ひとときでも脳内をリセットできる強力な浄化作用を求めて、気づけば毎週のように自然へと向かった。一から森の中で住環境を設え、火を熾し、食事を摂り、寝床につく、それだけの遊びにのめり込んだ。思えば、キャンプを始めた頃は雨漏りでずぶ濡れになったり、強風でテントが倒壊したり、寒さで凍えたりもした。

しかし、そんな生の自然に晒された、不便な環境だからこそ、自らの知恵と技量だけで、美しく快適に過ごすためにあれこれ工夫すること自体が悦びとなった。そして日曜に太陽と共に目覚め、帰路につき、心地よく健全な疲労と共に柔らかなベッドに沈めば、月曜にはすっかり心身がととのっている。

どうやら、人間の基本設計は、今もなお、ご先祖様が長い時間を過ごしてきた自然の中での生活に最適化されたままのようで、授かった本来の能力を使わないまま眠らせていると、ちょうど運動不足のように、心身に様々な不具合を起こし始める。そんなとき私たちは、山に入り、家をつくり、森の中で朝を迎えることで、自らの内に眠る"野生の記憶"へと巡礼を行うのだ。



「X-S20」には、自然な距離感を保つ“慎ましさ”がある。

カメラには、英語で“Shooting”と言うように、観るものは観られるものの同意なく、その瞬間を射貫いてしまう側面がある。今回、久々に再会する友人と自然の中で時間を共にするのに、大きく、重く、強すぎるものは好ましくない。その意味で、「X-S20」には、フルサイズの大型一眼レフにはない、自然な距離感を保つ“慎ましさ”がある。また、撮影位置の自由度が高いキャンプでは、その場の空気感が映り込む標準域の単焦点レンズを好んで使うことが多いが、コンパクトな「X-S20」と「XF33mmF1.4 R LM WR」との組み合わせが特に軽快で心地よく、気づけば、ふと心が動いた時に“まばたき”をするようにシャッターを切っていた。しかし、その画をひとたび見ると、APS-Cサイズのセンサーを持った、小さなカメラであることを忘れるほどの映りにハッと驚く。旅先やキャンプで写真を撮るときに大切なのは、一瞬の素晴らしい状況や光を、仰々しい機材や所作でその場の空気を崩さずに、そのままそっとすくい取ることだと思う。キャンプの後に訪れた市中の小さな茶藝館で撮影した際にもそのことをつくづく実感した。最上スペックの大型カメラでは映し出せない写真は確かに存在する。





私たちは、人類の長い歴史のなかでも、不特定多数の人々への情報発信が、ソーシャルメディアによって民主化された“個の時代”に生きている。そして写真には、自分が何者であるのかを言語を越えて伝える力があり、スマートフォンで気軽に撮れる時代だからこそ、カメラという道具を介したものには、撮影者の存在がより明確に映り込むように思う。ところで、握手の起源は、利き手を開いて差し出すことで、相手に武器または敵意を持っていないことを示す信頼の証とされる。世界中の人々と直接繋がる時代に生きる私たちは、その代わりに、自らのささやかな日常を写真というかたちで発信することで、まだ見ぬ友人達にその手を開いて差し出しているのかもしれない。出会い、学び、信頼し、そして共に新しい旅に出るために。

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FUJIFILM X-S20 / XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZレンズキット

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